【法政大学体育会馬術部・見学記2024】マヒア編
長らくJRAで活躍したヤマニンマヒアでしたが、残念ながら怪我で現役を退きました。引退後は法政大学体育会馬術部に寄贈され、法政大学体育会馬術部の皆さんに見守られながら、獣医さんやOBの皆さんの指導のもと、大会に出場すべくリトレーニングを受けています。怪我も良くなっているとのことで、一安心です。
ウマ娘から競馬に興味を持ち、名障害馬ヤマニンアピールを知ってからヤマニン軍団を応援してくれている大の障害レース好き・CKさん(@CK_Ariaze)。競馬場で初めてお会いしたのは、2023年1月中山新春ジャンプS(OP)に出走したヤマニンマヒアを応援した中山競馬場でした。今回、ヤマニンマヒアとの再会を記事として寄稿して下さるとのことで、ここにご紹介します。ヤマニン軍団大好きなサポーターの皆さんと、想いを共有できたら、なおやも嬉しいデス!
本コラムは、法政大学体育会馬術部様の特別な許可を頂き、実際に見学させて頂きました。 一般の見学は受け付けていらっしゃいません。
CKさん(@CK_Ariaze)
身を切るような寒さの中、東京競馬場の無人のスタンドが視界の右を流れていく。
今日会いに行く馬のラストランとなったコースだ。
2023年11月4日、秋陽ジャンプステークス
障害3110メートルをレコードタイムよりコンマ1秒早く駆けたその馬の脚は、限界を超えた。
ヤマニンマヒア
父:ディープインパクト
母:ヤマニンカルフール(父エリシオ)
ワンオブアクラインを祖母に持つ、まさにヤマニン軍団らしい血統である。
僕はヤマニンファンになったのがごく最近だった(飛鳥ステークスのヤマニンサンパが初めての現地応援)ので、平地時代の彼の走りは記録で見るほかなかった。
障害初出走となる福島の未勝利戦で早めに仕掛けて圧勝を見せたヤマニンマヒアの「魔法」は衝撃的だった。
はじめは障害ファンとして、ヤマニン軍団から出た久々の障害競走へのチャレンジャーである彼の背中にヤマニンを代表する障害馬であるヤマニンアピールの姿を重ねていた。
しかし中山新春ジャンプステークス、ペガサスジャンプステークスと挑戦を続けてのちに重賞を制覇していくイロゴトシやダイシンクローバーらに惜敗したマヒアの姿を見るうちにその気持ちは変わっていった。
マヒアがターフを去る日まで応援しよう、と。
そして夏の阪神でオープン勝ちをおさめたマヒアの放牧療養明けの秋始動戦となる11月4日、僕は勤務シフトを恨みながら職場にいた。
今にして思えば、適当に理由をつけてサボってでも観戦に行くべきだった。
ゴール後にヤマニンマヒアの鞍上、石神深一騎手が5位入線後に下馬したというツイートを見たのは夕方の休憩時間のことだった。
季節外れに暑かった日のレコード決着、休養明けとなれば軽い熱中症かなにかだろうと軽い気持ちでいた。
「ヤマニンマヒア登録抹消」
はじめにその報せを受けたのは外出先で、隣にいた友人に心配されるくらいに動揺した。
運転中に涙が止まらなくなったりマヒアのことを考えるたびに目頭が熱くなったり家を建てる覚悟があれば馬一頭なら個人でもなんとか支えられないかと計算したり落ち着かない日が続いたが、それだけで記事になってしまうので割愛する。
高尾山ICを降り、真新しいトンネルをくぐって町田街道へ。途中コンビニに寄ってからナビに従って走ると法政大学のゲートが見えてきた。
立派なサッカー場わきの駐車場の隅に停車すると、ちょうどヤマニン倶楽部のメンバーも到着したところだった。
軽く挨拶をして厩舎わきの通路を抜けると、馬場で三頭の錦岡生産場が部員を背に練習していた。
監督と部長にご挨拶し、馬場にいる三頭の名前を教えてもらう。
「マヒアは中にいますよ」と案内されて早速厩舎に入る。
新設の乗馬クラブと比べれば築年数は感じるものの、機能的で手入れの行き届いた環境に感じた。
「これがマヒアです。今は去勢手術後なのでこの子だけ藁敷きです」
黄色い格子の向こうで、ヤマニンマヒアはもそもそと寝藁をかじっていた。
僕を含めた見学者に気づいたマヒアはすっと顔を上げて近づいてくる。
ふんふんと鼻を鳴らしながら匂いを嗅ぐマヒアの額には斜めのハートマーク。
相手は二ヶ月前まで現役の競走馬、噛まれようが蹴られようが構わない。
それくらいの覚悟はしてきたが、そんな心配したこちらが恥ずかしくなるくらいマヒアは大人しかった。
そっと手を伸ばし、彼の鼻面にそっと触れた。
艷やかな黒鹿毛の体毛越しに体温が伝わってくる。
ーー生きていた。
感極まって泣き出したときのためにポケットにハンカチまで用意しておいたが、なんとかこらえた。
手を引っ込めると、マヒアはまた馬房の奥へ引っ込んでいった。
セレステアルスターやヤマニンマンダリンの練習風景を見せていただきながら装蹄中のヤマニンパスティユの食い意地エピソードで談笑していると、ヤマニンマヒアの運動の時間が来た。
頭を上げ過ぎないようにするための細い紐こそつけているものの、嫌がる素振りもなくキャプテンの手綱でマヒアは少しずつ運動強度を上げていく。
常歩から速歩へ、そして駈歩へ。
滑らかな黒鹿毛が太陽の光を反射し、黒曜石のようだ。
「マヒアは素直でいい子です」
クールダウンして写真を撮りやすいようにラチの前に戻ったマヒアの首に抱きつくように愛撫するキャプテンを少しだけ羨ましいと思いながら僕はシャッターを切った。
ヤマニン倶楽部有志で集めた心付けと一緒に「これをマヒアに」と神田明神の健康長寿のお守りを渡すとキャプテンが早速マヒアの無口につけてくれた。
金色のお守りはマヒアの頭の動きに合わせてキラキラと輝いていた。
マヒアを真ん中にした記念撮影の後は講堂へ移動し、法政大学馬術部の取り組む人馬のウェルビーイング活動についての説明を聞く。
詳細についてはなおやさんの見学記を読んでいただくとして、いち競馬ファンとしての感想は
「綺麗事ではなく本当に真摯に馬に向き合っている」
という姿勢だった。
ウマ娘ブームをきっかけに(僕もその一人だが)競馬そして競走馬のセカンドライフがクローズアップされる昨今。
「私達は錦岡牧場から馬を頂いている立場で、行き場のない馬を救っているというのは思い上がり」という監督の言葉を噛み締めながらお招きいただいたお礼を述べて法政大学多摩キャンパスを後にした。
順調に行けば、マヒアは年内にも競技にデビューするという。
津久井馬術競技場、馬事公苑、山梨県立馬事公苑。
いずれも鉄馬で行けば3時間とかからない「近所」だ。
ヤマニン軍団の応援に今年は学生馬術の応援も加わり、鉄の愛馬にもたくさん騎乗することになりそうである。
(了)
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とても楽しそう!
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