【法政大学体育会馬術部・見学記2024】第2回
本コラムは、法政大学体育会馬術部様の特別な許可を頂き、実際に見学させて頂きました。 一般の見学は受け付けていらっしゃいません。
人馬の息吹を感じながら
法政大学体育会馬術部さんは、町田街道を挟んで法政大学多摩キャンパスの反対側、相模原市の城山にあります。豊臣秀吉の北条家征伐に関わるお城が周囲にあったりする地域です。隠れた紅葉の名所でもあるらしいです。門を抜け、法政大学城山サッカー場を右手に見ながら進んだ奥に、厩舎が見えてきます。
指定された厩舎手前の駐車場でレンタカーを降りると、私たちを見つけてご挨拶して下さった方こそ監督の柏村晋史さんでした。長らく連絡を取りあっていたとはいえ、これが初リアル対面。ヤマニン倶楽部有志一同でご挨拶させて頂きました。早速ご案内頂けるとのことで、厩舎脇を抜けて馬場前に誘導されると、馬と学生さんたちがすでに練習されており、他にも年齢の高い方も含め、多くの方がいらっしゃいました。厩のにおい? 私たちは慣れっこなので、あまり気にしていないかも。
既に活動時間であるらしく、馬場のさまざまな場所で、先輩と後輩、人馬、そして総監督さんがトレーニングを行っていました。2月の冷たい空気の中で、運動する人と馬の息吹を間近で聞くことができる貴重な瞬間です。
私たちが馬場を見渡すと、柏村監督から同馬術部の部長を務められているスポーツ健康学部 高見京太教授をご紹介頂くとともに、錦岡牧場さんとの関係や大学馬術部の現在地、取り組んでいることなど、数々のご紹介と解説を頂くことになりました。
所属している錦岡牧場生産馬たち
さて、本稿を読んでくださっている方の多くは競馬ファンであり、ヤマニン軍団のサポーターのみなさんかと思います。かつて応援したどんな馬たちが所属しているのか、気になりますよね? まず最初に、現在 法政大学体育会馬術部さんに所属している元ヤマニン軍団、つまり錦岡牧場生産馬9頭をご紹介いたします。
馬名 | 性 | 齢 | 生年 | 毛色 | 父馬名 | 母馬名 |
---|---|---|---|---|---|---|
ヤマニンエミュ | 牝 | 15 | 2009 | 鹿毛 | キングカメハメハ | ヤマニンエリプス |
ヤマニンリンクス | 騸 | 15 | 2009 | 青鹿毛 | ロージズインメイ | ヤマニンアリエル |
ヤマニンパスティユ | 牝 | 11 | 2013 | 鹿毛 | スクリーンヒーロー | ヤマニンジャルダン |
セレステアルスター | 牝 | 10 | 2014 | 青鹿毛 | キングズベスト | ボーテセレスト |
ラジュンジェレ | 牝 | 8 | 2016 | 鹿毛 | スウェプトオーヴァーボード | ボーテセレスト |
ヤマニンマンダリン | 牝 | 8 | 2016 | 鹿毛 | シンボリクリスエス | ヤマニンファビュル |
ヤマニンマヒア | 騸 | 8 | 2016 | 黒鹿毛 | ディープインパクト | ヤマニンカルフール |
ルアオレ | 牝 | 7 | 2017 | 鹿毛 | ワークフォース | ボーテセレスト |
ヤマニンパンタジア | 牝 | 5 | 2019 | 鹿毛 | サトノアラジン | ヤマニンカルフール |
ヤマニンエミュは、JBCレディスクラシック(JpnI)勝ち馬ヤマニンアンプリメの半姉。ヤマニンマヒア、ヤマニンパンタジアは、OPクラスでも活躍したヤマニンボワラクテやヤマニンシルフの半弟妹にあたります。ボーテセレスト産駒たちは、神戸新聞杯(G2)優勝馬イコピコの従弟妹にあたります。
ふり返った時の驚き
驚いたことがたくさんあるのですが、実際にこの本稿を書きながらあることを発見してしまいました。それは、『耳を伏せている場面に会わなかった』ことです。
馬の感情や考えていることは、耳の動きに出ると言われています。そのなかでも嫌がっている時に出る所作が『耳を伏せる』という行為です。
(ヤマニンパラダイス産駒は、いつも耳を伏せて噛み付いてくる勢いだったなぁ……サンデーサイレンス産駒あるある?)
耳を伏せている馬たち
ところが、今回の法政大学体育会馬術部さん見学のなかで、私は馬たちに耳を伏せられることがありませんでした。これまで見たこともない人々が近くに寄ってきて、たくさん写真を撮られて、馬房から出し入れされ(部員の皆さん、突然にも関わらずご協力いただきありがとうございました。錦岡牧場のスタッフの方はこの部分を読んで「さもありなん」と同情を寄せていることでしょう……)、カリカリしてもおかしくない状況だったと思うのですが、とても落ち着いたものでした。
思い出されるのは、『人間を信頼している証』という土井睦秋さんの言葉です。
法政大学体育会馬術部の馬たちが、とても大事にされていることを改めて認識することができたのです。
大学馬術部の実情
柏村監督が私たちに説明して下さったお話は、とても興味深いものでした。
大学の馬術部は日本全国で80前後あり、大学毎にそれぞれ、厩舎を構えることや維持していくことに大変な苦労があると思います、とのことでした。
4年に一度のオリンピックで、唯一「ヒト」以外で出場することができる動物が「ウマ」であり、「馬術」という競技です。インカレ(全日本学生選手権)の頂点を目指して、各大学馬術部は鎬を削っています。しかし、パートナーは大型動物であり、維持・活動するのに多大なコストとスキルが要することは、想像に難くありません。法政大学体育会馬術部さんも、創立100年を越えるなかで、こうして拠点を構えられるようになったのは歴史の半分もないそうで、「恵まれている方」だと仰られます。
「新型コロナ禍で、馬たちを維持するのに苦労しているポストを何件も見ました」
ヤマニン倶楽部のXを細々とではありますが続けていたことで、Xのタイムラインには当時、大学馬術部の馬たちを飼育するのに苦しんでいるポストを見た記憶があります。活動の主体が学生さんであること、サポートが必要なこと、高度なスキルと多額の費用を必要とする馬の飼育は、通常でもハードルが高いであろうし、ましてやあの新型コロナ禍では、厳しかったでしょう。
これも馬術に限らず、スポーツのある一面を表していると思います。それは、コストとスキルが必要なのです。馬術であれば、そのどちらもが通常のスポーツよりハードルが高そうです。
法政大学体育会馬術部さんの馬場の隣には、日本代表としても活躍する上田綺世選手を輩出したサッカー部の城山サッカー場があります。施設があり、選手がおり、指導者がおり、道具が必要です。どんなスポーツも。
「私たちも部の活動をどう維持していくのかは、常に課題です。そんななか、錦岡牧場さんには馬たちを寄贈して頂いています。とても感謝しています。だからこそ、競走馬時代の馬名で競技会に参加しています」
競走馬時代の馬名で参加する意味
―――え? どうゆうことですか?
「寄贈頂いたことで所有権は法政大学体育会馬術部が持っていますが、錦岡牧場さんへの感謝を忘れないためにも、馬名を変えていません」
競走馬の馬名を馬主さんが決めているように、馬は所有者が変わると馬名を変えることは良くあることです。以前通っていた乗馬クラブにも、たくさんの「馬名を変更した馬たち」がいました。それは「過去を消す」という意味もあり、馬の世界ではよくあることだそうです。それが「消えた馬の足取り」が追えない正体です。
そしてとてもステキなことに、錦岡牧場出身の馬たちのゼッケンは、ヤマニンの勝負服カラー、錦岡牧場の勝負服カラーで、馬名入りなのです!
私にはもう1つ、疑問がありました。
サラブレッドで馬術競技?
――それでも、馬術競技で上位に来るのはサラブレッドではないですよね?
実際、世界的な馬術大会で優勝する馬の品種は、オランダ温血種(KWPN)、セルフランセ(SF)、ハノーヴァー(HANN)などの中間種で、4桁万円を超える金額で取引されることもあるそうです。名門と呼ばれる大学では、これらの品種で取り組んでいるともいいます。
「確かにインカレで優勝するような大学では、外国産乗用馬が活躍されていますね。でも、私たちは引退競走馬たちと一緒に工夫することで、学生馬術に挑戦できると思っています。実際、オール錦岡さんで東京六大学に出場しています」
馬術部にとって必須である馬ですら、迎え入れるのは大変なことなのでしょう。
錦岡牧場さんが最初、必要とされているのであればと馬を寄贈したのがことの始まり。
法政大学体育会馬術部さんは、寄贈された信頼を裏切らないよう日々の鍛錬を重ね、インカレや東京六大学でも活躍するようになり、信頼を、成果で返してみせたと言えるのではないでしょうか。
「馬術部を維持するには、本当にたくさんの方のご理解とご協力が必要なのです」
そしてその第一歩が、錦岡牧場さんからの馬の寄贈だったのです。
ヤマニンマヒア繋養の経緯
――今回、障害レースでも活躍したヤマニンマヒアの寄贈を受けた経緯は?
「今回、初めて錦岡牧場さんからオファーを頂いたんです」
柏村監督は、少し間を置いて、お話し下さいました。
「きっと、私たちのこれまでの取り組みを認めて下さって、お声を掛けて頂いたのだと思います」
絶対そうですよ! と口に出したい衝動にかられながら、とてもステキですよ! と心の中で思いながら、何度も頷いてみせたオッサンなのでした。
馬房数も部員数にも限りがあるため、常に受け入れられるわけではないけれども、活躍した馬をオファーされた。受け入れられる状況だった。縁がひとつ、ふたつと重なって、積み上がっていく様子を、私たちは見せて頂いているのでしょう。活躍したヤマニンマヒアの行く先を、牧場側が考えないわけがないのです(もちろん怪我の具合も見ての判断も含まれると思います)。
「ヤマニンマヒアは、すでに運動を始めています。現キャプテンが担当しています」
そしてヤマニンマヒアの運動の様子を見ながら、柏村監督は馬のリトレーニングについてお話を始められました。
「JRAの馬事公苑宇都宮事業所で特別に習得した誘導馬候補馬に行うリトレーニング方法で、調教を進めていきます……。」
――う、うん。情報量が多すぎません?(^^ゞ
でもね、錦岡牧場さんの馬の寄贈から始まった法政大学体育会馬術部さんのジャーニーは、周囲の縁を巻き込むとてもステキなものに繋がっていくのです。
続く!
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とても楽しそう!
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