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#3 まさにJRAの実践知 〜引退馬のリトレーニング〜

法政大学体育会馬術部・見学記2024#03

【法政大学体育会馬術部・見学記2024】第3回


本コラムは、法政大学体育会馬術部様の特別な許可を頂き、実際に見学させて頂きました。 一般の見学は受け付けていらっしゃいません。

目次

JRAに学ぶウマのリトレーニング

馬場内でトレーニングされている馬たちを見ながら、柏村監督の説明に耳を傾けている私たち。
大学馬術部の置かれている現在と、錦岡牧場さんより馬たちを寄贈されたことに対する感謝の念。その証として馬名を変えずにさまざまな馬術大会に参加していること。

法政大学体育会馬術部を見学するヤマニン倶楽部メンバー
法政大学体育会馬術部を見学するヤマニン倶楽部メンバー

馬たちと人の縁をとても大切にされていることを感じつつお話を伺っている、元競走馬であるサラブレッドを馬術競技に用いる難しさ、という疑問が湧いてきます。そんな我々の疑問に、柏村監督はこのように回答して下さいました。

「JRAの馬事公苑宇都宮事業所で特別に習得した誘導馬候補馬に行うリトレーニング方法で、調教を進めていきます……。」

引退競走馬を馬術競技で用いるためのリトレーニング方法を、JRAに学んでいる、というのです。
これは背景を少し調べてみないと、すぐには理解できないお話ではあります。
そこでまずは、簡単に競走馬たちのセカンドキャリアについて調べてみました。

ウマたちのセカンドキャリア

ここに、引退競走馬に関するJRAの公式CMがあります。
競走馬たちの引退後、どのようなキャリアがあるのか、紹介されています。

誘導馬。
セレモニー用の馬。
セラピーホース。
馬術競技馬。

これ以外にも、競走馬として活躍すれば繁殖馬として、また乗用馬、警察馬、農業や運送などに使われる作業馬など、意外と多岐に渡ります。
ウマたちの「セカンドキャリア問題」は、こうした様々なシーンで活躍の場を作って行くこと、がまず大事なことだと思われます。活躍の場を多く作ること、です。
そして次に、セカンドキャリアへスムーズにチェンジできる「土壌作り」が大切になります。

「引退競走馬のリトレーニング」

引退競走馬が「セカンドキャリア」にスムーズに進むために、ここで紹介されているリトレーニングがとても重要です。ヒトも同じだと思うのですが、アスリートとして活躍していたスポーツ選手が、明日からビジネスの世界で、例えば営業パーソンとして活躍できるわけではないのです。折角の彼ら・彼女らのキャリアを活かす意味でも、リトレーニングを受けます。ウマも同じで、速く走ることを「是」として訓練を積んできたアスリートである彼ら・彼女らに、馬術や乗用馬として求められる基礎をしっかりとトレーニングし直す必要がある、ということです。
以下、こちらの記事を参考に書かせて頂きます (【馬術×競馬】(10)競走馬から乗馬や競技馬へ 「リトレーニング」ってどうやって行うの?)。

東京オリンピック開催が決定し、JRAがそれを支援することがきっかけとなってスタートした「引退競走馬のリトレーニング」事業。「大学から馬術を始めた2年生の部員が理解、実戦できる内容」をコンセプトに、2020年に『引退競走馬のリトレーニング指針(サラブレッドの理解とグラウンドワーク)』というガイドブックを発行しており、「正しい引き馬をする」というところから馬と一緒にきちんとしたルールの下に生活することをベースに策定されているそうです(JRA馬の資料室・記事)。
JRAでは、競馬場でレース前に競走馬たちをガイドする誘導馬たちのリトレーニングにも、この方法で行っています(誘導馬たちは、元競走馬たちです)。

京都競馬場で誘導馬となったヤマニンモノポリー
京都競馬場で誘導馬となったヤマニンモノポリー

ちなみに、馬事公苑は東京オリンピックの会場として改装するため、一時的に栃木県宇都宮市に移転していました。昨年、元の場所である東京都世田谷に戻ってきています。

JRA馬事公苑のサイト
JRA馬事公苑のサイト

グラウンドワーク

このリトレーニングに出てくるのが、「グラウンドワーク」です。
馬の心理を理解し、馬が人をリーダーとして信頼する関係性を作ることを目的としたトレーニングです。信頼関係を構築できれば、本来なら驚いて逃避してしまうような刺激にも、狼狽えることなく馴らすことができる、というわけです。それはセカンドキャリアを歩むうえでとても重要な要素のように思います。
法政大学さんでは、これらに取り組み、2020年と2021年で50名の学生が履修したと発表されています。

このレポートにも、グラウンドワークの写真が掲載されているので是非ご覧下さい。
傘を近づけたり、開いたり閉じたりしたり……競馬をご存知の方なら知っているであろう、ウマたちが嫌う行動の1つです(パドックでやっていたら、警備員に取り囲まれるかも……)。グラウンドワークでは、不快な刺激を受け入れさせる手法を、リーダーである人が正しく習得し行うことで馴れさせ、人との信頼性のもとで行動できるウマを育成していきます。人を信頼しているウマだからこそ、セカンドキャリアにおけるトレーニングを受け入れ、ウマたちのセカンドキャリア構築の礎になります。

そこで、こちらがXで投稿した本連載の予告イラスト。

リードをつけていない馬が、リーダーである人について行っているイラストです。
実際にリトレーニングの結果として、人との信頼関係が構築されていればこのように、素直に馬がついてくる、と言うわけです。
今回は直接目にする機会はなかったのですが、ご紹介いただいた映像を視聴したのですが、ウマがヒトについてくる様子は、競馬場のパドックや乗馬クラブでの少ない経験からすると、衝撃的な映像でした。これだけの信頼関係を、馬術部の皆さんは作ることができるようになっている、ということです。
そして、寄贈された錦岡牧場の生産馬たちは、この信頼感のなかで、日々生活を送っている、ということなんだな、と認識しました。

競技大会で活躍することが恩返し

ここで大事なことは、法政大学体育会馬術部さんは、引退競走馬たちのセカンドキャリアのためにやっているというよりも、自分たちの活動に真摯に取り組んでいる、というところです。大きな声で主張することもできるだろうに、あくまで目的は自分たちの「活動」にフォーカスされていて、そのための活動として位置づけていらっしゃいます。

「ここでは、部員たちがJRAさんから受けたトレーニング方法で馬を育成しています。ヤマニンマヒアも現キャプテンが取り組んでいます。この馬術部に寄贈して頂いた大切な馬たちです。適切な方法論でリトレーニングして競技大会で活躍することが、恩返しになると思っています。」

「でも馬術部って、やっぱり維持するの大変です。だから、私たち自身の足で立って歩んでいかなければいけない。そう考えると、法政大学体育会馬術部がある意味って、まだまだこれだけじゃないと考えています――」

柏村監督の続けた言葉は、真摯に取り組んできたからこそ見える「ビジョン」があるように感じられました。

続く!

#4 人馬のウェルビーイング 〜価値を証明し続けること〜 に続く!

CKさん特別寄稿「ヤマニンマヒアに会いたい!」も是非ご覧下さい^^

法政大学体育会馬術部さんの Instagram

なおや

とても楽しそう!

法政大学体育会馬術部・見学記2024#03

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